2014年4月28日月曜日

つばめ




丹波へ行ってきた
とても天気がよくて
どんどん春めいてきている


あちこちから
チチチチチ
と、ツバメのせわしない鳴き声が


ヒナのエサを探すため
びゅんびゅん旋回して
空中に見えない文字を描いている


電線に4羽とまり
チチチチチ
チチチチチ
と、何か話している


桜が咲くことより
タケノコを食べることより
ツバメが飛ぶと春を感じる


帰りのラジオでツバメの話題
ツバメが巣を作る場所というのは
ほどほどに人が来る場所らしい
だからどれほど素敵な屋根がある店でも
人が少なければツバメも来ない、と


ツバメはせっかちな感じがして好きだ

2014年4月8日火曜日

まくら




ベッドの周りに何かがちらばっている。
「、、、ストロー?」
薄いピンク色をしたストローの切れ端のようなものがいくつか落ちていた。
あ、アレだ。枕の中に入っているアレだ。
「なんでこんなところに、、、」
枕カバーを外してみると、メッシュが破れてアレがもれていた。
そろそろ替え時かな。




僕は寝ることが得意だけど、睡眠自体は好きじゃない。
でも徹夜は苦手だ、というよりできない。
何度か眠りながら歩いて帰ったことがある。
寝るのにはちょっとしたコツがある。
目を閉じて、頭の中に意識を「ぽん」と置く。
ちょうど目の奥、両耳のセンター辺りに小さな玉をイメージする。
ぐるぐる働いている脳みそや
体のいたる所のブレーカーを落とすように
全部OFFにして小さな玉に意識を集めていく。
そして小さな玉を徐々に頭の外へ落としていく、、、
するといつの間にか眠りについている。
目を覚ます方がよっぽど難しい。




ちょうど近くの無印がリニューアルオープンしたので新しい枕を買いにいった。
使っていたのと同じようなパイプストローの枕や、そば殻、羽毛と何種類かあった。
パイプストローの枕は低いような気がしたし、そば殻のはちょっと硬い気がした。
悩んだ挙句、羽毛の枕に決めた。
家に帰って洗濯した枕カバーを付けたら後は今晩寝るだけだ。


「コレどうしよう、、、」
アナが空いてストローがもれている枕。
そのまま捨てていいものなのか。。。
「よし、やぶいて中身を全部出してみよう。」
メッシュの穴を広げて、中のストローをビニール袋に出していく。

サーーー
おお、出る出る
サーーー
どんどん出る
サーーー
サーーー
サーーー




ぽたん




ストローがなくなりかけてきた時に何かが出てきた。
「ん?なんだこれ? …玉?」
5㎝ほどの大きさの小さな玉が出てきた。
薄い肌色のような色をして、少し粉っぽい。
触ると少しへこむが芯があって、見た目よりも重い。
枕から出てきた小さな玉は1つだけ。



一人暮らしを始めるずっと前からこの枕を使っていた。
中学校の時に引っ越しをし、敷布団からベッドになった。
そのとき布団と枕を新調したが、新しい枕にどうも馴染めず
捨てようとされてた枕をまた使うことにした。
なので最低でも15年は使っているだろう。
15年分の睡眠の塊がこの小さな玉なのかもしれない。



中のストローはスーパーのビニール袋2つ分くらいの量があった。
ビニール袋2つだと4人家族の1日分の食事程度しか買えないだろう。
僕の睡眠はその程度のものだったようだ。
なんとなくこの玉を捨てるのが惜しいように思えてきた。
毎日毎日、僕を眠りの世界へ先導してくれた枕の玉だ。
何か使い道はないものか?
有効な処分の方法はないのか?


家の中ではなかなかいい案が浮かばないので、
コートを羽織り、財布と鍵だけ持って出かけた。
小さな玉はコートのポケットにそのままつっこんだ。
傷がつかないように鍵は反対側のポケットに入れた。
地下鉄に乗り、大きな公園へ行くことにした。



電車に乗ったのは良いがやることがない、読みかけの本でも持って来ればよかった。
手持無沙汰だったので、ポケットの中の球をコロコロ触りながら周りを見渡す。
中途半端な時間だったせいか乗客はまばら。
地下鉄が走る音がするだけ。
ごーーー
ごーーー
ごーーー
僕の他にも乗客はいるが誰も一言もしゃべらないし、音も立てない。
目的地に着いたら無言で降りていき、無言の乗客がまた乗ってくる。
聞こえるのは電車の音と、録音されたアナウンスの声だけ。
窓を見てもぼやけて映る自分の顔しか見えない。
体に違和感を覚え、次の駅で電車を降りてしまった。


目的の駅はあと2駅だったけど、次の電車を待つより歩いた方が早く着きそうなので改札を出た。
蛍光灯のぼんやりとした光と
褒められもせず嫌味も言われないようなタイル張りの壁。
進んでいるような気がしない。自分の足音が遠くでなっているように聞こえる。
地上への出口が遠く、歩いているうちに体がだんだんズレていくように感じてきた。
ポケットの中の玉を触ると、さっきより柔らかくなっているような気がする。



長い通路を抜け、階段を上がり地上へ出た。
曇っているわけではないが、ビルが多いせいで辺りは影っている。
ビル風が強く吹くので目をすぼめて歩いていると、
スーツを着た営業マンらしき人とすれ違った。
口をパクパクさせ電話で話をしているが、風のせいで声が聞き取れない。
電話の相手には伝わらない身振りを交え、パクパクさせている。
また体がずれてきているように感じてきた。
ポケットの中の玉を触ると、あきらかに柔らかくなってきている。



右足の次は左足。後ろから前へ。
一歩進むごとに体がどんどんずれていく。
ずり落ちそうな体を慎重に支えながら歩いて、ようやく公園にたどり着いた。
公園には観光バスが何台も停まっていて、観光客が大勢いた。
ガイドの案内する声や小さな子供の叫び声が混ざり合い、一つの音として聞き取ることができない。
ごわごわごわごわ
ごわごわごわごわ
ポケットの中の玉が熱をもち始め、握ると変形するほどになっていた。
雑音に飲み込まれないように、池の方へずれた体を引きずり歩く。
片方の手で柵を握り体を支え、玉を池へ放り投げる。




どぼん




見た目よりも重そうな音を立てて、玉は池の中に沈んでいった。





「チチチチ」
頭の上をツバメが飛んでいった。
ずいぶん気が早いツバメがいるもんだ。
気が付くと、さっきまで詰まっているようだった耳がクリアに聞こえるようになっていた。
体のズレも治っていた。いちいち考えなくても歩くことができる。



ただ、喪失感のようなものが残った。
触らないとわからないひっかきキズのような。
放っておくとそこから広がっていくかもしれないキズ。
そこを埋めるものをそのうち探しておかないといけない。
いらないものを処分できたと思ったら、また必要なものが探さないといけなくなった。




まだ寝ぼけているように咲いている桜の木の側を歩く。
まだ足元に花弁は落ちていない。
蟻がミミズを運んでいる、アスファルトと同化して目を凝らさないと蟻が見えない。
おじいさんがこぐ自転車に追いぬかれた時、カゴの中にあるラジオからうっすらと歌が聞こえてきた。
知らない歌だ。
「くわぁ、、、」
あくびが出た。
どこかでコーヒーを飲んで帰ろう。