2015年10月29日木曜日

あしやつくる場のこと「自転車乗りのフランス人と文豪ウォッチ」

10月17日土曜日

芦屋市立美術博物館で
「ART MARKET あしやつくる場」
快晴の空の下催されました




前回、GWに行われた際には
私は喫茶路地の代理店長としてあしやマダム達にコーヒーを淹れてあげました
今回は残念ながら、諸事情によりコーヒー屋さんとして出店することができませんでした
でも、ひょんなことから、今回再び参加することとなったのです










今回のつくる場のテーマは“食”と“本”
近所のご飯屋さんが出展したり
食にまつわる小物を販売したり
関西で人気の古本屋さんが集まり
“食欲の秋”と“読書の秋”のどちらの欲求も満たす
なんとも秋らしいイベントとなりました



出店された古本屋さんは関西の古本屋好きなら誰もが知っている人気店ばかり
よく行く店と気になっていた店だらけ



今回は出店できないけど、個人的に遊びに行こうと思っていた矢先
とある方からメッセージが







「つくる場で、トンカ書店さんの代理店長をしてくれませんか?」








オーマイガット






なんてこったい






一度はあこがれる本屋の店員

しかも神戸に行くとたいてい足を運ぶ知ってる古本屋さん

「コーヒー屋の代理店長」に次ぐ新たな代理店長の肩書



二つ返事でOKしました








JR元町駅から山側徒歩5分ほど歩いた所にある雑居ビルの2階にあるトンカ書店

関係ないけど、「山側」と神戸の人っぽく言ってみた
普通やと「北へ5分ほど歩いた所」、京都やと「北へ5分ほど上がった所」になる

屋号にもついてるようにザックバランな品揃えの本屋さん
「所狭し」とはこのことというように本が並べられているけれど
キチンとジャンル分けされているので“探すつもりがなかった良い本”がみつかる
今年で開業10周年の皆に好かれているお店
気さくな女性の店主がお一人でやっている
(たま~に旦那さんが店番されていることもあるらしい)

このお店の看板を背負うとなると
当日は気を引き締めてやらないと!



、、、と、まぁ気をいれすぎてもしょうがないので
十分楽しむつもりで参加させていただきました
店主さんにもそう言っていただいたので、ピクニック気分で当日を迎えました





朝8時半頃に阪神芦屋駅に着き
駅からちょっと歩いたところにある「パンタイム」というパン屋さんに寄って
グリーンカレーのハードトーストサンドを買い
モグモグ食べながら芦屋美術館へ向かいました

立派な門構えの家が立ち並ぶ閑静な住宅街
はたしてここはシャンゼリゼ通りかしら?
と思う道でパンを食べながら歩いていると
なんとなく申し訳ない気持ちになってきました

ただパンはとてもおいしかったです



美術館に着き
郵送されてきた本が入っているダンボールの荷をほどき
自分のブース内にテントを立てて
美術館で用意してもらったリンゴの空き箱に本を並べる

芝生に座り、う~んう~んと悩みながら本の並べる
とても楽しい時間

料理の本~絵本~イラスト集~旅の本
と内容がグラデーションするような流れをつくる



  左側に見える「海の本屋のはなし」は
  閉店してしまった海文堂書店の店員さんが書いた本
  とても良い本で題に添えられているとおり記憶と記録が書かれた本
  オススメです◎








いつの間にか隣で横になりくつろぎながら本を選んでいる人がいた
60才くらいの大きな外人さん
「こんにちは」とあいさつすると
本を並べている僕に『それ、とても楽しいでしょう』と笑いかけてくれた
黙々と本を並べている楽しさが伝わったようだ

話を聞くと
昨日フランスから大阪に着き、平野から芦屋まで自転車で来たらしい
日本には32回も来ている
と、とても流暢な日本語で説明してくれた

雑誌「coyote」の旅特集をめくり
そこに載っていたアーティストと以前同じマンションに住んでいと教えてくれた
その本も含め3冊買っていってくれた
別に谷川俊太郎が特集されていたcoyoteもあるよと言ったけどこっちだけでいいそうだ
この人は旅が好きなんだと勝手に決めつけておいた



1番のお客さんが「つくる場」が始まる10時よりも先に来てくれたので幸先が良い
天気もいいし本当にピクニックにきたようだ






昼から店を開けなければならないのに
合い間をぬって来てくれたトンカ書店の店長さん
お知り合いの本屋さんに声をかけ、本を買ったりとても楽しそう

お客さんにも顔見知りなのかどうか判断できないほど
誰にでも気さくに話しかけていた
この人だから10年も続いているんだな、と思った
お店はその店主の人柄を表わしているな、とも





後ろのブースには只本屋さん
京都の東大路五条の町屋を改装して
全国各地にあるフリーペーパーを扱っている不思議な本屋さん
やっていることも面白いけど、それ以上に最近のフリーペーパーのクオリティに関心する
「え?これタダでええのん?」って気を使ってしまうくらいよく作られている
みんな京都の学生さんなのでなんともなじみ深い




通路をはさんだ隣には居留守さん、LVDBさん、FLOKさんの
イケイケな本屋さん達が軒を連ねる

この中でもひときわにぎわっていたのが居留守文庫
なんか電動ドライバーの音が聞こえるな~と思ったら
いつのまにかすごい本棚ができあがっていた
砂糖に群がるアリのように居留守さんの本棚に老若男女が群がっていた





午後からウミネコ楽団さんのライブがあった
アコーディオンとウッドベースの2人組
広場のいたるところで子供たちに囲まれながら演奏する
子供たちが物珍しげにウッドベースの弦をさわりはしゃいでいる
今日の日差しにあったのどかな音楽が美術館の空気に馴染んでいた







こっちから声をかけなくてもお客さんが寄って来てくれる
のんびりできたけど、16時の終了間際までちょうどいいくらいの客入りだった

何かを介して人とお話しするのは面白い
「本」「トンカ書店」を介していろんな人とお話しできた
直接話をしなくても、その人が手に取った本をみるのも面白かった



今日一番の成果は文豪ウォッチが売れた事

以前、新潮社が行っていた100%ORANGEが描いたパンダが目印の「Yonda? CLUB」
新潮文庫の裏表紙についている三角マークを集めて送ると
さまざまな景品と交換できるのキャンペーン
その景品のひとつの文豪ウォッチ
文豪ウォッチは50枚集めないともらえない、つまり50冊読まないければならない
(これを私は2種類持ってます)

日本の文豪が文字盤に載っていて
短針の代わりになっている丸い穴から文豪の顔が見える仕組みだ
例えば12時なら森鴎外が見え、6時なら太宰治が見える
ただ時計としての機能はない
文豪は6人しか載ってないので、中間だと誰かもわからないし何時かもわかりにくい



その文豪ウォッチに何人かの人が興味を示してくれて
いかに使いにくいか等を笑いながら話していると
最後の最後に来てくれたお客さんがありがたいことに買ってくれた

売れたことはもちろん嬉しいけれど
時計のことを話して、むしろ良くない部分しか話していないのに
気に入って買ってくれたことが嬉しかった









あっという間に閉店の時間
トンカ書店は1日だけなので僕の本屋代理店長の仕事も1日だけ
とても充実した1日でした



自分がトンカ書店の棚の隙間に入り込めたようで嬉しかった



2015年10月9日金曜日

「海の本屋のはなし」を読んで

神戸元町にあった海文堂書店
僕は一度も行くことがなかったけど
「海にまつわる本が売っている本屋がある」とだけは知っていた
2013年、閉店するとこが決まった時
僕は何かのニュースでそのことを知った

潰れた後は「あの時、行っとけばよかったな」と思ったけど
「海の本屋のはなし」を読んで
それはちょっと違うかもな、と思った





著者の平野義昌さんは閉店時まで働いていた書店員さん
平野さんが綴る海文堂書店の99年間の流れ

「なんでこんなにいい本屋が潰れたのか」と数字を並べて語るのではなく
開店から閉店までの時間を語り
創業者、それを引き継いだ社員、店に来るお客さん
海文堂書店に関わった人とはどんな人だったのか
そこに店があったから起こった出来事
文章から人の動きが鮮明に見えてきて
読み終えると自分が体験してきたことのように感じた






海文堂書店には数字やマニュアルでは表せない接客があった
売り手と買い手、立場は真逆だけど同じ価値を共有していて
この店に来る人は皆、海文堂書店を必要としていたんだろう

「I LOVE YOU」を「月が綺麗ですね」と夏目漱石が言ったように
ある言葉を何かに例えて言うことができる人はいる
が、その曖昧な気持ちを的確に言える人はいないんじゃないか

皆それぞれ違うが、思うところは同じ
そこにいた人にしかわからない事で
それは皆が気付いてない、些細なことなんだろう






海文堂書店が皆に愛される良い本屋だったのは

働く人が本屋を良くするために働いていたわけではなく
本にまつわる環境を良くしようと働いている人がいたから
結果的に良い本屋になったんだろう


なんでもかんでも「つながり」という言葉を使うのは
語彙力のないところを隠せてないから嫌だけど
海文堂書店は本でつながりを作っていた

「今後、本を買うときはどうすればいいいいんや!」
「どう責任とるんや!」と怒られていたこと
「あなたの作る棚が好き」と言われていたこと
本屋、場所がなくなるということは大変なことだとわかった





自分のお気に入りの本屋、店をつぶさないためにはどうすればいいのだろうか
お店を援助できるほどの財力なんかない
ささやかな援助としてできるのは本を買うこと、通うこと

ありがたいことに僕らは自分で買う店を選ぶことができる
だから、なるべく自分のお気に入りの店で買うようしようと思っている






僕は大阪に来てから本屋によく行くようになった
本屋では多くの事を得る事ができる
文化、流行り、音楽、絵、写真
何のあてもなく来ても得るものが山ほどある

ネットの本屋はとても便利だ
欲しい本がすぐみつかりすぐ買うことができる
買えるものは山ほどある
でも、ネットでは買うことしかできない
ネットを批判ばっかりするのも気が引けるからあまり言いたくないけど

やっぱり本屋で買う方がいいと思う

本屋は買わなくても得るものがある
ただそこに通わなければわからない事が多いから
楽な方に行ってしまうのかもしれない
本屋に行けば欲しいとも思ってなかった本を見つけることができる



それの何が良いのかは僕は知らないけど